ステロイドと健康 ― 薬で筋肉がつくなら、こんな簡単なことはない。

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こんにちは。ROCKSの澤村 英希です。トレーニングに関する海外を中心とした研究論文と、ROCKS会員様の実データをエビデンスとしたブログを発信しています。少し長くなりますがご覧ください。

わたしは、アナボリックステロイドに手を出そうかと本気で考えたことがあります。

筋トレを何年も続けて、食事管理も徹底して、それでも体の変化が停滞する時期がありました。そんなとき、SNSやYouTube、コンテスト大会で見かけるのは、明らかに常人離れした体をしたトレーニーたちです。薬を使えば、もっと早く、もっと大きく変われるのではないか。薬で筋肉がつくなら、こんな簡単なことはない。その誘惑は、想像以上に強いものでした。

だからこそ、徹底的に調べました。論文を読み、医学的なデータを追い、使用者の末路を知りました。

結論として、わたしはステロイドを使わないと決めました。

アナボリックステロイド(AAS)は、テストステロンの合成誘導体です。筋たんぱく質の合成を促進し、筋肉量と筋力を効率的に増加させます。これは事実です。効果があるからこそ、世界中で使われています。

しかし、その代償として体が支払う対価は、あまりにも大きい。

まず、心臓です。

2025年にCirculation誌(アメリカ心臓協会の最高峰ジャーナル)に掲載されたデンマークの大規模コホート研究があります。2006年から2018年にフィットネスセンターでドーピング検査に引っかかった1,189名のAAS使用者を、年齢・性別を一致させた一般集団と比較し、2023年まで追跡した研究です。結果、AAS使用者は心血管疾患の発症リスクが一般集団と比較して有意に上昇していました(Windfeld-Mathiasen et al., Circulation, 2025)。

同じデンマークのコホートを用いた2024年のJAMA Network Open掲載の研究では、AAS使用者の死亡リスクは非使用者の2.81倍(95%CI: 1.98-3.99)でした。死因には心血管疾患とがんが多く含まれています(Horwitz et al., JAMA, 2024)。

死亡リスクが約3倍。これは、筋肉と引き換えに寿命を差し出しているようなものです。

心臓への具体的なダメージも明らかになっています。

2025年のメタ分析(35件の研究、2,000名)では、AAS使用者は非使用者と比較して、左室駆出率(心臓のポンプ機能)が平均2.25%低下し、心臓の壁が肥厚し、左室の質量が増加していることが確認されました(International Journal of Cardiology, 2025)。

これは心肥大と呼ばれる状態で、放置すると心不全や致死性不整脈、突然死につながります。しかも、この心筋の変化は使用を中止しても完全には戻らない場合があることが、複数の症例報告で示されています(Frontiers in Cardiovascular Medicine, 2023)。

一度壊れた心臓は、元には戻らないかもしれない。この事実は重いです。

心臓以外にも、AASは全身に影響を及ぼします。

脂質代謝の異常(HDLコレステロールの著しい低下とLDLの上昇)、血栓形成リスクの増大、肝機能障害、精巣萎縮、不妊、女性化乳房、にきび、精神的な不安定(攻撃性の増加、うつ)。2019年のデンマークのコホート研究では、AAS使用者の10%以上がにきび、女性化乳房、勃起障害を発症しており、入院回数も非使用者の2倍以上でした(Horwitz et al., J Intern Med, 2019)。

筋肉は大きくなっても、性機能が壊れ、精神が不安定になり、心臓に爆弾を抱える。それは「強い体」とは呼べません。

わたしが調べれば調べるほど明確になったのは、AASの問題は「使い方」の問題ではなく、「そもそも使うかどうか」の問題だということです。

適切な量なら安全だという主張もありますが、超生理学的な用量で使用する限り、心血管リスクは避けられないことが研究で示されています。しかもAASは依存性があり、使い始めると量が増えていく傾向があることも報告されています。

健康を犠牲にして手に入れた筋肉は、健康を失った瞬間に何の意味も持たなくなります。健康とトレードオフでは、意味がないですよね。

わたしが筋トレを続けているのは、健康に生きるためです。人生を豊かにするためです。今の私が在るのは、ナチュラルな筋トレを正しく継続した結果です。薬の力ではありません。

時間はかかります。停滞する時期もあります。それでも、自分の体が自分の努力で変わっていく過程には、薬では得られない充実感があります。

もしステロイドに興味を持っている方がこの記事を読んでいるなら、まずエビデンスを見てください。そして冷静に考えてください。その筋肉は、寿命と引き換えにする価値があるのかどうかを。

わたしの答えは、明確にNoです。

【参考文献】
・Windfeld-Mathiasen J et al. “Cardiovascular Disease in Anabolic Androgenic Steroid Users.” Circulation. 2025.
・Horwitz H et al. “Mortality Among Users of Anabolic Steroids.” JAMA. 2024;331(14):1230-1232.
・Horwitz H et al. “Health consequences of androgenic anabolic steroid use.” J Intern Med. 2019;285(3):333-340.
・Santana JO et al. “Anabolic-androgenic steroids on cardiac structure and function in resistance-trained athletes: A systematic review and meta-analysis.” Int J Cardiol. 2025.
・Liu JD, Wu YQ. “Anabolic-androgenic steroids and cardiovascular risk.” Chin Med J. 2019;132(18):2229-2236.
・Esposito M et al. “Forensic approach in cases of anabolic-androgenic steroid abuse and cardiovascular mortality.” Front Cardiovasc Med. 2025;12:1585205.
・Roos A et al. “Anabolic–Androgenic Steroids Induced Cardiomyopathy: A Narrative Review.” PMC. 2025.
・Thiblin I et al. “Morbidity and mortality in patients testing positively for AAS.” Drug Alcohol Depend. 2005;80(1):37-45.